INTERVIEW

佐渡ビジネスコンテストでは、参加者が様々なビジネスモデルを提案し、その優劣を競い合います。

優秀なビジネスモデルと認められると補助金やフォローアップが受けられるため、起業を目指す方にはこの上ないチャンスです。

実際に佐渡ビジネスコンテストに参加され、見事入賞を勝ち取られた方々のインタビューをぜひご覧ください。

チューニング株式会社

代表取締役  岩本 雄さん

佐渡ビジネスコンテスト2022

受賞されたビジネスプランをご紹介ください。

音楽SNS「Chooning」ブラウザ版の開発と運用

現在、スマートフォンアプリ(iOS、Android)としてサービス提供をしている「Chooning」のブラウザ版の開発です。

音楽SNS「Chooning」
チューニング株式会社 代表取締役の岩本さん

佐渡ビジネスコンテストへ応募したきっかけを教えてください。

最初に佐渡島を訪れたのは、大学時代の部活の合宿でした。その後も合宿でお世話になった岩首村の方々と交流が続くようになった僕は、卒業制作のテーマに佐渡島を選ぶなど、様々な形でこの島と関わり続けてきました。もう十年以上「都会で学び、働きながら、長期休みには佐渡で心を休める」というライフスタイルを送っています。

2020年、新型コロナウィルスによるパンデミックが世界中を襲いました。地方経済を取り巻く状況は深刻で、佐渡島も例外ではありません。お世話になっている岩首村の方に状況を伺い、僕は自分にできることを考えました。「Chooning」の開発拠点を佐渡島に移すというアイデアを考えはじめたのはこの時です。

その後、佐渡市雇用機会拡充事業補助金の公募を知り、アイデアを具体化するために動きはじめました。その過程でコンテストについて知り、補助金の審査の加点を狙ってエントリーした、という経緯です。

コンテスト本選審査へ進まれる中で課題などはありましたか?

審査員の方々がどのように判断されたか分からないのですが、僕自身は、事業そのものが佐渡島との地縁を必要とする性質のものではない点を課題に感じていました。

場所にとらわれない事業だからこそ、僕にとって愛着のある佐渡島で実施したい、という発想なのですが、それは同時に「佐渡島でなくても行える事業」であることも意味しています。他の方は「佐渡だからこそできる事業」を提案するでしょうし、その点で見劣りしてしまうのではないかと不安に感じていました。

「どこでもできるからこそ佐渡でやりたい」ということを分かってもらうために、これまでの僕と佐渡島の関係や、この島に対する僕の気持ちを細かく言語化し、丁寧に伝えることを意識しました。

コンテスト後のNEXT佐渡のフォローアップなど、その印象や感想を教えてください。

佐渡市が運営しているシェアオフィスへの入居を支援いただき、大変助かりました。実際の開発拠点は岩首村で行っているため、なかなか通えていないのですが…(笑) 他の入居者とのコミュニケーションの機会もあるはずですし、今後もっと積極的に利用していきたいと思っています。

なぜ佐渡で事業を展開されようと考えたのでしょうか?

他の地域を検討して佐渡島を選んだわけではありませんので、一般に佐渡島が事業運営に優位かどうかは分からないというのが正直なところです。ですので、これはもう「僕にとっては」佐渡が最適だった、という極めて個人的な文脈として聞いていただきたいのですが「岩首談議所が僕のクリエイティブに必要だったから」です。

先程述べたように、僕は十年前の大学時代から佐渡島の岩首村に出入りしているのですが、その村で「岩首談義所」という、廃校になった小学校を利用した地域のコミュニティスペースを利用させていただいています。

僕はこの場所で、村の人々の暮らしぶりや価値観などを学ばせていただきました。田舎に作られたある程度外向きに開かれたコミュニティスペースというと、都会から来た利用者に対しておもねるような部分や、それなりに接待的なものが発生してしまいがちなのですが、岩首談義所にはそれが一切ありません。僕がはじめて訪れたとき、この場所の管理人的存在のおじいさんから「この学校は、この村の人たちが子どもの頃に過ごした場所だ。村の人からすれば自分たちの家に他人がやってきたのと変わらない。そのことを理解して使いなさい」と言われたのですが、まさにその言葉の通りに、空間と利用者の関係性が成立しています。

岩首談義所には、東京にあるクリエイター向けの施設のような設備はありません。ワーキングチェアもモニターもありませんし、コンビニが無いので毎食自分で作らないといけない。お風呂は、村から離れた温泉施設に行かなければなりませんが、閉館時間が早いので油断できません。制作に没頭しようとしても、生活のために時間が取られます。しかし、恐らくですが、この生活のために時間を使うことによって、一日の中にリズムを生むことが肝要なのではないかと思います。

僕はこの場所で田舎との付き合い方を教わりながら、これまで多くのものを作ってきました。卒業制作もそうですし、2016年に佐渡島で開催された「Creative Summer Camp」(広告賞「my Japan Award」が主催する合宿型の映像コンテスト)にエントリーして、島の文化的な魅力を伝えるCMを制作し、同大会で地域最優秀賞を受賞、広告賞「my Japan Award 2016」で伊藤直樹賞を受賞するなど、高い評価を受けるものを作ってきました。他にも、大小様々なプロダクトを岩首談義所に滞在しながら手掛けてきました。

僕の制作活動は、道具としてはパソコンひとつあればできることです。しかし本当にクリエイティブを支えているのは道具ではなく、発想を支える環境、時間の過ごし方であり、僕にとっては岩首談義所で生活するというやり方が最高にフィットしているのだと思います。

佐渡で事業展開することのメリットや魅力とは何がありましたか?

「都会で暮らす君たちの悩みについて、村の人たちは分からないし、何も言うことはできない。それでも、君たちが抱えているものを話したくなったとき、黙って聞くだけの時間はたっぷりとある。人生に疲れたときは、何も言わずに受け入れてくれる大自然と、故郷の持つ深さに甘えればいい。」

これは、僕が実際に岩首村の方から言われたことです。こんな言葉をかけてくれる大人がいる。それが答えだと思います。

僕は事業者として、この事業に関わるメンバーには完全移住を目指さず、田舎と都会を適度に行き来する付き合い方を伝えようと思います。それは、そのスタイルがクリエイターにとって重要な刺激となり、僕たちの事業を支えるものになると考えているからでもありますが、都と鄙に対してバランスの取れた視座を持った人が増えることは、これからの日本の地域創生や都市の発展においても寄与すると信じているからです。

もちろん、田舎には田舎の暗部もあり、それはしばしば移住者を失望させるものでもあります。移住者の方からすれば、そのような田舎の負の側面を引き受けずに「うまいところだけつまみ食いする」ような姿勢は心情的に従えないものがあるかもしれませんが、役割の違いだと思って飲み込んでいただき、一緒にやっていけたらいいなと思っています。

最後に、これから佐渡ビジネスコンテストに応募される方、
または応募を検討されている方へのメッセージをお願いします!

背景はそれぞれ違うでしょうが「何かを作るために佐渡島を選んだ」という点で共有できる価値観があるはずです。このコンテストに興味を持ったという時点で、僕と縁があるのだと思います。是非一緒に夢を語らいましょう!